学会からのメッセージ

働く人や集団・組織の成長と発達、共生の実現を目指して

不安と緊張が続く現代社会の中で、私たちは、ややもすれば心のバランスを失いがちです。そして家庭でも、学校でも、職場でも、心理的なサポートを必要とする出来事が増えています。

このような社会的要請に応えるため、日本産業カウンセリング学会は1996年3月に創設されました。以来、本学会は会員も増加し、日本学術会議より研究団体として認定され、企業や公共体、学校、病院、そして、施設、諸団体などを幅広く視野に入れ、そこに働く勤労者の健康、福祉、能力開発に貢献することを目的として、実践的なカウンセリングの研究活動を推進してまいりました。

本学会は、2016年4月の一般社団法人化に伴い、産業カウンセリングを「人間尊重を基本理念として、働く人が心身ともに健康で、それぞれの個性と役割が十分に発揮されるよう支援するカウンセリング活動の総称である。学術研究と現場実践に基づき、個人・集団はもとより組織に対して提供され、それらの成長・発達と共生関係の実現、ひいては幸福かつ持続可能な社会の創造に寄与する専門的過程である。」と定義し、対象領域を「産業」に限定することなく、働く人や集団・組織を支援するカウンセリングであるという立ち位置を明確にしました。

産業からキャリアへ

しかし学術領域の国際交流を進める中で、日本独自の職能資格に対応する名称である「産業カウンセリング」では国際的に意味が通じない問題が生じておりました。また、働く人や集団・組織が「産業」の言葉に代表される企業領域を大きく超えて、学校や地域社会、家庭や友人といった領域にも広がりつつあり、学会名称と活動領域のギャップが、これまで以上に大きくなりつつありました。

一方、「キャリア」の概念については、Super,D.E.は「キャリア」をいわゆる職業履歴ではなく、人生を構成する一連の出来事であるとしており、「キャリア=人生」という考え方は欧米では一般的となっています。人生100年時代においては職場だけでなく、家庭や退職後を含めた人生全体の支援が必要であることは論を待ちません。そしてワーキング心理学の観点からも、働く人の概念とは職場だけでなく学校、地域社会、家庭、友人関係の中で活動する人のことを表現するように変化してきました。本学会が当初、企業領域を意図していた「産業」という概念は、その重要性ゆえに領域を拡張してきた結果、人生全体を指す概念である「キャリア」と重なるようになりました。

このようにして学会改名への機運が高まり、2019年2月18日~3月31日には「日本キャリア・カウンセリング学会」という新名称案に対して、本学会員のアンケートでも賛成多数という結果となりました。そして理事会や改名に関するタスクチームで1年以上の議論を重ね、2021年4月1日、本学会は名称を日本キャリア・カウンセリング学会へと改名しました。

本学会が考える「キャリア・カウンセリング」とは「産業カウンセリング」を内包する概念です。産業カウンセリングから名前が変わりますが、メンタルヘルスケアや企業領域の活動は引き続き本学会にとって大切な領域であることに変わりはありません。

今日の社会におけるキャリア・カウンセリングの重要性

2015年に公認心理師、キャリアコンサルタントという2つの専門的心理支援に関わる国家資格が創設されるなど、心理やキャリアの領域における実践者の需要は高まってきています。「キャリア・カウンセリング」を研究する唯一の学術団体である本学会の果たす役割は非常に大きいものだと考えています。

本学会はメンタルヘルスケアとキャリア形成支援を2つの重要な柱としています。これは本学会が産業カウンセリング学会であった頃から変わらない軸です。メンタルとキャリア、いずれも人の心と深くかかわりを持つもので、別々の問題ではありません。産業・組織、学校や家庭などを含めた様々なフィールドで働いている研究者や実務家が、メンタルとキャリアの両面から力を合わせてこの難問に対処できること、そしてメンタルとキャリアの専門家のコラボレーションが本学会の大きな特徴です。わが国の産業組織をはじめとした様々な領域におけるキャリアや人間の問題は、これからも益々重視されることでしょう。

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大とその対策によって、社会のあり方や組織の活動、そして個人のキャリアも多大な影響を受けることとなりました。その一方でリモートワークやオンライン授業などの技術が社会や日常に浸透し、その恩恵を受ける組織や人もいれば、それ自体が大きな負荷やストレスとなる組織や人もいるなど、一言では言い尽くせない状況が目の前にあります。こうした状況に立ちすくんでしまう、そうせざるをえない組織や個人に寄り添うことがメンタルヘルスケアの領域、そして心を癒やし前に進もうとする組織や個人を後押して成長を支援することが本学会のキャリア形成支援の領域における役割だと考えています。

本学会に意欲的な産業人、研究者、臨床家が多数ご参加くださることを大いに期待しております。

各位のご理解とご支援をよろしくお願いいたします。

学会の主な活動

研究大会・総会の開催
会員の研究発表と相互交流の場として、年1回の研究大会が開かれます。
大会では個人発表のほかシンポジウムや講演が行われます。

学会誌『キャリア・カウンセリング研究』の発行
学会の機関誌として『キャリア・カウンセリング研究』が発行されます。
原著、資料、事例研究、ケース報告、展望、書評および研究や実践に関する最新情報が掲載されます。

研究会・研修会・ワークショップ・講演会
大会とは別の企画として調査研究、研究会シンポジウム研修会やワークショップ、 講演会が開かれます。この中で自由な討議が交わされ、研究と実践が深められています。

会報の発行・ホームページ運営
学会活動の情報提供や会員間の意見交流のために、会報を発行しホームページを運営します。
内容は、大会のお知らせ、各種委員会活動などです。またメールニュースも配信いたします。
学会が身近に感じられるような情報をお届けできるよう、会員の参加を期待しています。

その他の活動内容
1) 関係諸団体との交流
2) キャリア・カウンセリングスーパーバイザーの養成
3) 会員の交流のための懇親会の開催

定款・指針等

学会名称変更にともない各種文書の改訂を行っております。一部資料は改訂前のものですが、ご参考まで掲載しておりますので、「産業カウンセリング」を「キャリア・カウンセリング」に読み替えてください。随時、差し替えを行います。

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